緊急事態でも邦人救出できない日本


 1985年3月、イラン・イラク戦争での邦人救出に日本政府は救援機を出せませんでした。テヘランから日本人(215人)を救出したのはトルコ政府の救援機でした。自国民より、日本の在留邦人を優先させ、救出したのです。トルコへの感謝の思いは忘れることはできません。なぜトルコ政府が助けてくれたのか?

残念ですが今回はこの美談をお伝えしたいのではありません。

関心のある方は、この映画をご覧ください。

海難1890

1890年、和歌山県串本町沖。後のトルコであるオスマン帝国の親善使節団を乗せた軍艦エルトゥールル号が座礁して大破、海に投げ出された乗組員500名以上が暴風雨で命を落とす。そうした過酷な状況下で、元紀州藩士の医師・田村元貞(内野聖陽)やその助手を務めるハル(忽那汐里)ら、地元住民が懸命の救援活動に乗り出す。

それから時を経たイラン・イラク戦争中の1985年、日本政府は危機的状況を理由にテヘラン在留邦人の救出を断念。そんな中、トルコ政府は彼らのためにある行動を取る。

(映画解説:GYAOより、画像:Yahoo!映画より)

 

今日、お話したいのは、なぜ日本政府は救援機を飛ばさなかったのかということです。

それは、イラン・イラク領空の安全保障の取り付け、確保がなされないと日航救援機は飛ばせないという日本国内の法律の壁があったためです。要するに戦火の中においては、邦人救出用チャーター便は飛べない、飛ばすことができない現実が日本にはあったのです。

しかし、他国は、緊急事態(戦火)の中であるからこそ、自国民救出のために救援機を派遣するのは当然と考えます。ですから、危険をかえりみず、助けにくるわけです。自国民が外国でクーデターや災害等に巻き込まれると救援機や運輸機で自国民を救出するのはもはや世界の国々の慣例となっているのです。

 ところが、当時の日本は救援機や政府専用機を所持していなかったのです。もちろん、自衛隊機は飛ばせません。そして、日本の民間機を救援機として派遣する場合、どうなりますか。実際にイランとイラク両国から、安全の確約を現地で取得しなければなりません。民間航空機の乗務員の安全確保が優先されるためです。現実的にはそのような確約は不可能でしょう。

【国際法上、在外自国民の保護・救出は、領域国の同意がある場合には、領域国の同意に基づく活動として許容されます。なお、領域国の同意がない場合にも、在外自国民の保護・救出は、国際法上、所在地国が外国人に対する侵害を排除する意思又は能力を持たず、かつ当該外国人の身体、生命に対する重大かつ急迫な侵害があり、ほかに救済の手段がない場合には、自衛権の行使として許容される場合があります。】

 日本はこの時の教訓をふまえ、

「多くの日本人が海外で活躍し、生命にかかわる緊急事態が生じる可能性がある中で、憲法が在外自国民の生命、身体、財産等の保護を制限していると解することは適切でなく、国際法上許容される範囲の在外自国民の保護・救出を可能とすべきである。国民の生命・身体を保護することは国家の責務でもある。」と提言されました。

 こうして、ようやく安保法制、自衛隊法の改正がなされました。

「在外邦人等の保護措置」という項目(第八十四条の三)が新設されました。在外邦人がなんらかの危機に陥った時、これまでの航空機「輸送」だけでなく、陸路での「救出・保護」も自衛隊が武器を携行して行えるようになったのです。

 それでもまだ救援機を飛ばすには大きな足かせが残ってしまっています。

以下の三つの足かせ(三要件)です。

①当該地域の安全と秩序を現地の当局が「維持、確保」して、戦闘行為が行われることがないこと。

②自衛隊の活動に武器使用を含めて、領域国の「同意」があること。

③領域国での関連現地当局との「連携・協力」の確保が見込まれること。

 この三つの要件を満たした場合のみ、自衛隊は、在外邦人の「救出・保護」を行えるのです。

 昨年のアフガンでの米軍撤退に伴う邦人救出は、こうした壁があったため、またもや救出がうまくできませんでした。米軍がアフガンから撤退することになった時、イスラム主義組織タリバンが実権を握る同国には、日本政府に長年協力してきたアフガン人が取り残されていました。その数は850人を越えました。在アフガン大使館やJICAの現職スタッフとその家族計約500人、さらにJICAの元スタッフとその家族350人ほどが日本に救出を求めていたのです。これらの人々は、タリバン側から「外国勢力」「旧政権協力者」として敵視され、生命の危険にもさらされる可能性があったのです。

 このとき、自衛隊機4機を救出に向かわせましたが、「邦人1人と米国からの要請をうけていた14人を移送」したのみでした。「対象者のほとんどを移送できなかった」のです。爆弾テロがあったため、先の三要件が満たされず、自衛隊は武器を携行して、在外邦人の「救出・保護」に出向けなかったからです。

 この時、米国は数万人のアフガニスタン人協力者などを米国などに移送しました。英独仏も自国民はもちろんですが、アフガニスタンでの現地協力者らを数千人から1万人超をそれぞれに移送、退避させています。

 現在も「邦人救出」に自衛隊は手枷足枷がはめられたままです。日本の自衛隊が、海外で窮地の在留邦人を救い出すことは極めて難しいのです。安全でない地域での邦人救出に、安全確保を絶対条件とする法律との矛盾があります。日本ではこの矛盾を平気で言い続け反対する人々がいます。そして、平和ボケしている私たち国民もいるのです。

 今後、政府としては、さらに邦人救出のために法整備をし、さまざまな選択肢を持つことが早急に必要でしょう。自国民の救出に選択肢がないように法でしばる国は、主要国としては日本だけです。法案を改正するにあたって、戦争法案と言いながら反対する日本人がまだいます。

そろそろ、国民の意識が変わらないといけません。

多くの邦人が海外で救援機が来ないために生命を失ってはじめて、平和ボケから目覚めるのでしょうか。賢明な日本人なら、その前に気づいてほしいと願っています。

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